介護人材不足は全国的な課題であり、特にケアマネジャー(介護支援専門員)の確保は事業所にとって喫緊のテーマです。高齢化が進み要介護認定者が増える一方で、ケアマネの離職や資格保持者の潜在化が進み、「ケアマネはいるが実際に働いていない」というミスマッチが生じています。こうした現状を受け、東京都は2025年9月26日から新たに「介護支援専門員再就業等支援事業」を開始しました。この制度は、ケアマネの再就業や未経験者の実務参入を後押しし、10万円の奨励金を支給するものです。
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制度の背景:潜在ケアマネという存在と制度導入の意義

“潜在ケアマネ”とは、ケアマネジャーの資格を持っていながら現場で従事していない人材を指します。かつて働いていたが離職してしまった人や、資格は取得したものの実務経験がなく就業していない人など、多様な層が含まれます。この「潜在ケアマネ」の存在が、ケアマネ不足を構造的に難しくしている大きな要因とされています。
数字で見てみると、その乖離は顕著です。全国ではケアマネ資格登録者が約96.9万人にのぼるのに対し、実際に従事しているのは約22.5万人程度との調査もあります。別の報告では、資格保有者は累計で73万人以上いる一方で、居宅介護支援事業所で働くケアマネは18万人台にとどまっており、資格者のうち現場で働くのは2割前後とも言われています。つまり、多くの資格保持者が「潜在ケアマネ」として現場に戻っていないのが現状です。
なぜ潜在ケアマネが増えるのか。その理由は複合的です。ブランクがあると制度改正や実務への不安が生じやすく、未経験者にとっても「自分に務まるのか」という心理的ハードルが存在します。また、業務負荷や責任の重さに比べ処遇面での評価が十分ではないとの声もあり、就業をためらう背景となっています。
また、実践を離れているケアマネは、最新の制度改定やICTの技術などもありブランクを感じて就業をためらうケースもあります。特にケアマネ有資格者の年齢層自体が高いため、新しい挑戦には消極的になりやすい傾向があります。
東京都が今回、奨励金というインセンティブを設けたのは、まさにこの潜在ケアマネを現場に呼び戻すためです。資格を持ちながら眠っている人材を掘り起こし、再就業や未経験者の参入を促進することで、人材不足を改善する狙いがあります。加えて、大都市圏で事業所数が多く採用競争が激しい東京において、制度を通じて採用活動を支援し、地域全体の介護人材を安定的に確保する戦略的な意味も込められています。
東京都のケアマネ就業支援補助金の概要

東京都が2025年9月に開始した「介護支援専門員再就業等支援事業」は、潜在ケアマネや未経験ケアマネの現場復帰を促進し、介護人材不足の改善を狙う制度です。奨励金を支給することで就業のハードルを下げ、さらに6か月の勤務継続を条件とすることで定着支援も兼ねています。単なる一時金ではなく、「入り口」と「定着」を両立させる点が特徴です。
制度の基本内容(要綱より抜粋)
- 奨励金の金額:10万円(1人あたり、各要件につき1回限り)
- 対象者:
- ケアマネ資格を持ちながら離職して3か月以上経過し、都内で再就業した方
- ケアマネ資格はあるが実務未経験で、都内で新規就業した方(ただし当年度の新規登録者は対象外)
- 条件:
- 週20時間以上勤務
- 同一事業所で6か月継続勤務
- 申請方法:
- 本人が「奨励金交付申請書兼請求書(様式第1号)」を作成し、必要書類を添えて知事に提出
- 提出期限は、6か月の従事期間が経過した日から起算して6か月以内
- 東京都による審査後、適正と認められれば交付決定通知を受領し、奨励金が確定払いで支給
注意点とリスク管理
- 虚偽申請や条件違反があった場合は、交付が取り消され返還命令が出されます。
- 返還時には年10.95%の違約加算金や延滞金が科される規定があり、厳格な運用が想定されています。
- 他の補助金との相殺や交付停止措置もあり、不正防止のためのチェック体制が組み込まれています。
このように、制度は「潜在ケアマネの再就業」を後押しする一方で、適正な運用を徹底するため詳細な交付要綱が整備されています。事業所としては、この信頼性の高い公的制度を採用広報で打ち出すことで、求職者に安心感を提供できます。
詳細情報や最新の案内は以下から確認できます。

事業所が制度を採用活動に活かすメリット

東京都のケアマネ就業支援補助金は、個々の求職者に直接的なメリットをもたらす仕組みです。事業所側にとっても、この制度を採用広報に取り入れることで大きな効果を得られます。以下では、それぞれのメリットをより丁寧に解説します。
求人情報の付加価値
求人情報は数多く出回っています。その中で「東京都の奨励金10万円給付対象」と記載することは、応募者にとって目を引く材料になります。特にブランクのある人や未経験から挑戦しようとする人にとっては、経済的な安心材料があることで一歩を踏み出しやすくなります。求職者が比較検討するとき、金銭的インセンティブの有無は応募動機を左右する大きな要因となります。
定着率の向上
奨励金を受け取るためには6か月勤務の継続が条件です。この条件があることで、求職者は「奨励金がもらえるまで、少なくとも半年は頑張ってみよう」という気持ちになりやすくなります。事業所側にとっては、採用コストをかけた人材がすぐに辞めてしまうリスクを減らせる点で非常に有効です。その間に仕事や環境にも慣れ、定着することもあります。つまり、奨励金は単なる採用の入り口支援だけでなく、定着促進の仕組みとしても機能します。
他社との差別化
東京は事業所数が多く、求人は常に競争状態です。同じような条件で募集していても、「制度対象事業所である」という一言を加えるだけで、応募者にとっての信頼感が生まれます。これは、事業所が公的支援制度を正しく理解・活用している証でもあり、応募者にとって安心材料となります。結果的に、同業他社との差別化を実現できます。
採用広報での具体的な活用方法

この制度を採用広報に取り込むには、単に「奨励金あり」と書くだけでなく、応募者に安心感を与える工夫が必要です。
- 採用ページや求人広告への明記:「東京都のケアマネ就業支援制度が利用できます」と分かりやすく伝える。
- FAQ形式での補足:「パート勤務でも対象ですか?(→週20時間以上なら対象)」といった疑問をあらかじめ解消することで応募者の不安を軽減。
- 公式情報へのリンク設置:制度の公式ページを掲載し、情報の信頼性を高める。
- 実際の声の紹介:採用インタビューやブログ記事で「この制度を利用して再就業したケアマネ」のエピソードを紹介すれば、求職者が自分の姿を重ねやすくなります。
これらを組み合わせることで、単なる求人情報が「安心して応募できるメッセージ性を持った採用広報」へと変わります。
他自治体との比較と地域間格差
東京都は今回の制度により、ケアマネ採用支援において全国の先頭を走る存在となりました。しかし、近隣自治体と比べると支援制度の格差が見えてきます。
- 神奈川県・埼玉県・千葉県:研修費補助や処遇改善策はあるものの、東京都のように「再就業・未経験就業者への直接的な奨励金」は確認されていません。結果として、東京に人材が流入する可能性があります。
- 山口県岩国市や兵庫県明石市:1年以上の勤務継続で給付金を支給するなど、地方都市でも支援が始まっていますが、規模や周知度は東京都に劣ります。
このように、東京都の制度は求職者にとって大きな魅力であり、結果として地域間での人材獲得競争に差がつく要因となり得ます。財源の豊富な東京都だからこそ迅速に導入できた人材確保策とも言えます。ただ、東京都の取り組みに効果があれば、今後は近隣自治体でも追随の動きが出る可能性が高いでしょう。
国もケアマネ人材確保のために潜在ケアマネの再就業を実現するよう動き出しているようです。ただ、動画による魅力発信事業など、大衆に向けての施策に予算を投入する計画で、見当外れも甚だしい施策。潜在ケアマネを呼び戻すためには、金額はともかく今回の東京都の施策の方がターゲットを明確にできている意味でも効果はあると考えられます。
まとめ:補助金を採用チャンスに変える
ケアマネの採用難は今後も続くと予想されます。だからこそ、東京都の「ケアマネ就業支援補助金」のような制度を採用活動に組み込み、求人力を高めることが重要です。東京都内の事業者は自社サイトや求人媒体に情報を積極的に掲載し、採用競争で一歩リードしましょう。
また、東京都以外の事業者も自地域の自治体制度を調べ、自社の採用ページに掲載することをおすすめします。補助金・助成金の存在を「見える化」することで、応募者に安心感を与え、採用と定着の両面で効果を発揮できます。これからの介護人材確保は、いかに情報を活用してアピールできるかが鍵になるでしょう。

編集:
介護福祉ウェブ制作ウェルコネクト編集部(主任介護支援専門員)
ケアマネジャーや地域包括支援センターなど相談業務に携わった経験や多職種連携スキルをもとに、介護福祉専門のウェブ制作ウェルコネクトを設立。情報発信と介護事業者に特化したウェブ制作サービスとAIを活用した業務改善提案を行う。