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介護現場の情報連携に変革をもたらす「ケアプランデータ連携システム」
介護業界では、ケアマネジャーと訪問介護・訪問看護など在宅介護サービス事業所との間で日々さまざまな情報のやり取りが行われています。これまでは、FAXや郵送、電話などによってケアプラン・提供票や照会文書を送受信し、業務負担の大きさや情報共有のタイムラグが長年の課題とされてきました。
こうした中、厚生労働省が推進しているのが「ケアプランデータ連携システム」です。これは、ケアプランに関わる情報をセキュアな環境で電子的にやり取りできる仕組みであり、「脱FAX」や「業務の標準化」「効率化」を目指す国のDX施策の一環として整備されました。
特に、2025年6月から始まった「フリーパスキャンペーン」によって、これまで導入に慎重だった介護事業所にも新たな選択肢が提示されています。申請を行えば、通常21,000円かかる年間利用料が1年間無料になるというもので、経営面でも大きなインパクトがあります。
しかし実際には、導入が進んでいない現状も明らかになってきました。2025年5月時点での全国利用率はわずか6%にとどまり、地域間の格差や利用事業所数の減少といった懸念も指摘されています。
この記事では、ケアプランデータ連携システムの概要やキャンペーン内容に加え、現状の課題や今後の展望、そして導入を検討する事業所が理解しておくべきメリット・デメリットについて、正確かつ分かりやすく解説します。
業務効率化や人材不足対策を模索している経営者・管理者の方にこそ、知っておいていただきたい内容です。
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ケアプランデータ連携システムとは?
厚生労働省が推進する「介護DX」の中核施策
ケアプランデータ連携システムは、居宅介護支援事業所と介護サービス提供事業所との間で、ケアプランに関する情報を安全かつ効率的にやり取りできる仕組みとして、厚生労働省が整備・提供している国主導の共通インフラです。
このシステムは、介護分野の「業務効率化」や「情報の標準化・電子化」を目的とする「介護DX(デジタルトランスフォーメーション)」施策の一つとして位置づけられており、2021年度以降、段階的に機能が強化されてきました。
ケアマネとサービス事業所間の情報連携をオンライン化
従来、ケアマネジャーが作成するケアプランやサービス提供票は、FAXや紙の郵送でサービス事業所に送られ、受け手側がそれを手入力で転記するという非効率な手続きが主流でした。
これに対し、ケアプランデータ連携システムでは、以下のような情報が標準化されたフォーマットで電子的に送受信されます。
- サービス提供票・別表(様式第6表)
- 利用票・別表(様式第7表)
- 居宅サービス計画書(ケアプラン)など
情報の送信は、厚生労働省が指定する「ケアプランデータ連携対応ソフト」を通じて行われ、セキュリティが確保されています。

対象となる事業所とシステム要件
この仕組みを利用できるのは、居宅介護支援事業所および在宅介護サービス事業所(訪問介護・訪問入浴・訪問看護・訪問リハなど)です。
利用にあたっては、以下の要件を満たす必要があります。
- 「ケアプランデータ連携システム対応ソフト」の導入
- 法人単位でのアカウント登録
- 通信環境(インターネット接続、電子証明書など)の整備
- 厚労省ポータルサイトでの利用申請
また、利用にあたっては年間21,000円(税別)の利用料が発生しますが、2025年6月から2026年5月末まではフリーパスキャンペーンの対象期間となっており、申請すれば1年間無料で利用可能です。
2025年6月スタートの「フリーパスキャンペーン」とは
年間21,000円の利用料が無料に
ケアプランデータ連携システムの利用には、本来、年間21,000円(税別)の利用料が必要です(法人単位の契約)。これは特に小規模事業所にとっては導入障壁となっており、これまで利用が進まなかった要因の一つでもありました。
こうした状況を受け、2025年6月1日から2026年5月末までの期間限定で「フリーパスキャンペーン」が開始されました。このキャンペーンでは、期間中に利用申請を行えば、申請時点から1年間、利用料が全額免除される仕組みとなっています。

無料化の背景にある“普及の伸び悩み”
このキャンペーンは、制度の普及が想定以上に進まなかったことを背景に導入されました。2025年5月時点で、全国の利用事業所数はわずか97か所。利用率はわずか6%にとどまり、先月はむしろ前月比で872事業所も減少するという逆風となっていました。
厚生労働省としても、国が整備したシステムが「利用者がいない」状態では有効活用できず、現場の負担軽減にもつながらないという課題を強く認識していると考えられます。
フリーパスの適用条件と注意点
キャンペーンの適用には、以下の点に注意が必要です。
項目 | 内容 |
---|---|
対象期間 | 2025年6月1日〜2026年5月31日まで |
無料期間 | 申請日から1年間(最大で2026年5月31日までの申請が対象) |
対象者 | ケアプランデータ連携システムを新規で利用開始する事業者(既存利用者は対象外) |
必要手続き | 厚労省指定の申請フォームで登録、対応ソフトの導入、通信環境の整備 |
「様子見」が増える可能性も
1年間の無料期間は大きな魅力ですが、制度の成熟度や地域の連携状況を慎重に見極めたいという理由から、「他の事業所の動きを見て、ギリギリに申請する」というケースも想定されます。
「2026年5月末までが無料期間」ではなく、「2026年5月末までに申し込めばその後1年間が無料」になるため、期間満了までに登録をすれば同じく1年分の無料を使えるのです。
このため、キャンペーン終了直前に申請が集中し、システム導入や連携調整に時間がかかるリスクもあります。本気で業務改善を図るなら、早期に導入を検討し、使いこなす準備を始めることが望ましいでしょう。
実際のシステム導入状況と課題
利用率は全国でわずか6%、想定を大きく下回る普及状況
厚生労働省が公開している最新の統計(2025年5月末時点)によれば、ケアプランデータ連携システムの全国利用事業所数は97か所にとどまっており、全体の利用率はわずか6%程度という極めて低い水準にとどまっています。
驚くべきことに、先月は前月と比較して利用事業所が872か所も減少しており、普及が進むどころか逆に後退している地域すらあります。これは、システム導入に伴う手間やコスト、連携先の不在などが障壁となっている実情を浮き彫りにしています。
地域差が拡大、成功と失敗の分かれ目は「連携の土壌」
都道府県別の動向を見ると、普及状況には大きなばらつきがあります。
たとえば宮崎県では、過去1年で利用事業所数が約5倍に増加し、ケアマネジャーとサービス事業所が協調してシステムを活用する好事例が生まれています。一方で、長野県や富山県では大幅な減少が見られ、導入が定着しなかったことが推察されます。
宮崎県が大きく事業所数を伸ばした理由としては、行政が積極的にバックアップを行ったことや、導入支援に入ったNPO法人タダカヨの力も大きかったものと思われます。これは、行政の姿勢や支援事業者がどこまで事業者の視線で支援できるかにかかってくるのかと思われます。
「導入しても連携先がいない」リスク
最大の課題は、システムを導入しても、連携する相手事業所がシステムを利用していないと意味をなさないという点です。ケアマネジャー側が利用を始めても、サービス提供事業所がFAXでのやり取りを希望すれば、結局のところ二重対応(FAX+システム)が発生し、業務負担がかえって増えることもあります。
その結果として、「宝の持ち腐れ」「使わないのに利用料だけ払うことになる」といった懸念が生まれ、導入が敬遠される一因になっています。
中小規模事業所ほど導入が困難
特に人員やITスキルが限られる中小規模の介護事業所にとっては、導入・運用のハードルが高いという指摘もあります。対応ソフトの操作、職員教育、通信設定などに不安を抱える声も多く、結果的に「現場任せ」にされてしまうケースも少なくありません。
これらの懸念は当初から予想されていたが、まさしくそのまま現実になったということでしょう。
ケアプランデータ連携システムのメリット

ケアプランデータ連携システムは、ただのITツールではなく、業務の質とスピードを根本から改善する可能性を持つ基盤インフラです。ここでは、介護事業所にとっての具体的なメリットを4つの視点から整理します。
① 業務効率の大幅な向上
これまでケアマネジャーとサービス事業所の間でやり取りしていた提供票や利用票、スケジュール調整の確認作業が、FAXや電話ではなく、すべてオンライン上で完結します。
- 提供票の送付 → システム上で即時送信
- 返信・確認 → 自動で記録・通知
- 転記作業の削減 → 入力ミスのリスク低減
このように、手間と時間を削減することで、他の専門業務にリソースを振り向けることが可能になります。特に、月末月初の書類業務が集中する時期にこそ、大きな効果を発揮します。
② コストの削減(通信費・人件費・紙代)
紙による送受信やFAXの維持管理、郵送費用にかかっていた目に見えづらいコストがゼロまたは大幅に削減されます。
- FAX機器のリース代やトナー代の削減
- 郵送用封筒や用紙・印刷費の削減
- 手作業による確認や入力作業の工数削減
加えて、フリーパスキャンペーンを活用すれば、最初の1年間はシステム利用料も無料となるため、初期コストの心配なく導入検討が可能です。
③ 情報共有のスピードと正確性の向上
情報が即時に届き、システム上で送信履歴や返信状況が明確に管理されるため、書類の紛失や見落としが発生しにくくなります。さらに、タイムスタンプや自動通知の機能により、「送った・届いていない」トラブルを防ぐことができます。
- 書類の確認ミス・確認漏れの防止
- データの統一形式によるやり取りで認識のズレを回避
- 記録の電子保存によりトレーサビリティを確保
④ 地域連携・チームケアを支える土台に
ケアプランの共有がスムーズになることで、訪問介護・訪問看護・通所系サービスなど、複数の事業所と連携するチームケアの実現が加速します。
特に、今後の高齢者人口の増加と人材不足を見据えると、限られた職員で質の高い連携を行うためには、ICT基盤の整備は避けて通れません。
このシステムは、単なる書類送受信のツールにとどまらず、将来的な医療・介護・地域包括支援との統合連携の足がかりにもなるという意味で、戦略的な導入価値があります。
次章では、こうしたメリットと表裏一体ともいえる「デメリット・導入のハードル」について、冷静に整理していきます。導入をためらう事業所の声や現場の課題に正面から向き合います。
ケアプランデータ連携システムのデメリット・導入のハードル
ケアプランデータ連携システムには多くの利点がありますが、実際の導入・運用にあたっては、いくつかの障壁や懸念点があるのも事実です。ここでは、現場の声を踏まえた実務的な「導入の壁」となり得る要素を整理します。
① 連携相手がいなければ機能しない
このシステムの最も大きな課題は、「双方向の仕組み」であることです。たとえ自事業所が先行して導入しても、連携相手(ケアマネジャーまたはサービス事業所)が利用していなければ、FAXや電話との“二重対応”が必要となり、かえって業務負担が増える可能性があります。
- 「こちらは導入したのに、相手は使っていない」
- 「紙ベースでのやり取りを結局続けている」
- 「確認・返答はFAXのまま」
このような状況が続くと、職員のモチベーションも下がり、ツール自体の定着を妨げる要因となります。
② ITリテラシー・運用体制への不安
特に中小規模の事業所では、システム導入に必要なITスキルや人的リソースの不足が大きな懸念材料です。
- PC操作に不慣れな職員が多い
- 操作研修を行う余裕がない
- エラーや不具合発生時の対応に自信がない
また、実務上では「いつ・誰が・どの手順で送受信を管理するか」といった運用ルールの整備も不可欠です。この点が曖昧なまま導入してしまうと、かえって混乱を招きます。
③ 対応ソフトや通信環境の整備コスト
ケアプランデータ連携システムを利用するには、以下のような環境整備が求められます。
- 厚労省が認定する「対応ソフト」の導入
- 電子証明書やセキュリティ設定の構築
- 法人単位での申請・登録手続き
こうした初期準備には、一定の費用や時間がかかる上、外部ベンダーとの調整が必要になる場合もあるため、導入のハードルとして認識されがちです。
④ 導入効果が「見えにくい」初期段階
システム導入による効率化効果は、一定の運用期間を経てはじめて実感できる側面が強く、最初の数か月は“手間の方が増えた”と感じるケースもあります。
- 利用率が低い地域では、効果を実感できない
- 最初は学習コストや調整負担が先に来る
- 「どうせまた使われなくなるのでは」という不信感
そのため、導入を躊躇する事業所の多くは、「実際にどれくらい改善するのかが分からない」という不透明さをリスクと見なしています。
こうした課題を乗り越え、導入効果を最大限に活かすためには、地域全体での導入推進や、行政・包括支援センターとの連携、ベンダー支援の強化などが必要です。
このシステムが全国で普及するため、秘策はないのか?次の章で解説します。
普及を加速させるための3つの提案
ケアプランデータ連携システムが本来の力を発揮するためには、単一の事業所だけで導入しても限界があります。地域単位での普及促進と、制度面・技術面の改善が連動して初めて、実効性のある情報連携基盤として機能します。
ここでは、導入障壁を乗り越え、業界全体として活用を進めるために必要と考えられる3つの提案を紹介します。
提案1:地域包括支援センターが率先して導入・連携のハブとなる

まず鍵を握るのが、地域包括支援センターの役割強化です。
地域包括支援センターがケアプランデータ連携システムを一斉に導入し、居宅介護支援事業所や介護サービス事業所を引っ張っていくことが重要です。将来的には、居宅介護支援事業所との予防ケアプランの確認・照会などができれば、情報共有のプラットフォームとして機能することで、地域全体のデータ連携の流れが整います。
たとえば…
- 予防プランの確認依頼を紙で提出 → システムでデータ共有へ
- 書類の持参・押印 → オンライン確認・完結へ
こうした変化により、地域のケアマネやサービス事業所が自然にシステムへ移行しやすくなる導線ができます。地域包括支援センターや受託法人が導入し、地域連携を率先していくことはマストなのではないでしょうか。
提案2:医療機関との情報連携の実現

次に目指すべきは、医療と介護の垣根を越えた情報連携の拡充です。
現時点では、ケアプランデータ連携システムの対象は介護サービス内に限定されていますが、将来的には以下のような医療データとの連携が強く求められます。
- 退院時サマリーの共有
- 入院歴・服薬情報の事前連携
- 訪問看護報告書の共有・確認
ケアマネジャーにとって、医療機関とのやり取りは心理的にも実務的にもハードルが高くなりがちです。システムが標準的な連携経路となれば、その負担を軽減し、多職種連携が円滑になります。
提案3:完全クラウド化による柔軟なアクセス環境の整備

現行のシステムでは、1事業所内の特定PCからのみしかアクセスできない設計となっており、これは特に複数拠点展開やテレワーク対応を進める法人にとって大きな制約です。
将来的には…
- クラウドベースでの接続・管理
- スマートフォンやタブレットからの一時確認
- 複数スタッフでの共同閲覧・編集対応
など、より現場に即した柔軟なアクセス環境の構築が不可欠です。
「いつでも・どこでも・誰でも」安全に情報にアクセスできる環境が整うことで、日々の業務に自然に溶け込むツールへと進化していくでしょう。
この3つの提案が整えば、単なる業務ツールではなく、「地域包括ケア」の実現に向けた強力なインフラとして、ケアプランデータ連携システムが真価を発揮するはずです。
ケアプランデータ連携システムの未来と事業所の選択
ケアプランデータ連携システムは、単なる業務効率化の手段にとどまらず、介護現場の情報連携を根本から変える可能性を持つ国主導の共通基盤です。厚生労働省が制度整備を進める中、2025年6月からはフリーパスキャンペーンがスタートし、導入のハードルが一時的に大きく下がっています。
一方で、導入率は全国で6%に満たず、地域間格差や連携相手の不在といった課題も依然として残されています。つまり、システムとしてのポテンシャルは高いものの、導入・活用には戦略的な視点が必要だというのが現実です。
今、導入を“様子見”するのか、“一歩先行く”のか
多くの事業所が「周囲の動きを見てから判断したい」と考えているかもしれません。しかし、早期に導入し運用を始めた事業所は、業務効率や職員の意識改善といった先行効果を享受しつつあります。
- フリーパス期間中に試験導入して運用フローを整える
- 先行導入事例として地域に好影響を与える
- 将来の多職種連携・医療情報連携に向けた準備となる
これは、単なる費用対効果の問題ではなく、事業所としてのICT活用力・将来への適応力を問われる判断でもあります。
“誰かが使うまで待つ”ではなく、“自らが動き出す”という選択を
制度や補助の仕組みはあっても、それを「活かすかどうか」は現場の判断に委ねられています。ケアマネジャーとサービス事業所の間にある“距離”を埋め、地域ケアの質を高めるために――今こそ、現場から動き出すタイミングかもしれません。
フリーパスキャンペーンの活用、地域での声かけ、操作研修の実施、ソフト会社との連携など、一歩踏み出すことで未来の標準が変わる可能性があります。

編集:
介護福祉ウェブ制作ウェルコネクト編集部(主任介護支援専門員)
ケアマネジャーや地域包括支援センターなど相談業務に携わった経験や多職種連携スキルをもとに、介護福祉専門のウェブ制作ウェルコネクトを設立。情報発信と介護事業者に特化したウェブ制作サービスを行う。